小川一水_『老ヴォールの惑星』

SFマガジンによく掲載される小川一水氏の4篇の中篇集です。前に読んだ「天涯の砦」やSFマガジンの掲載作などではラノベ作家?というイメージが強かったのですが、この作品は本格SFが揃っていました。もっとも4篇中3篇は「元ネタあり?」って感じでしたが(^^;)
・「ギャルナフカの迷宮」=ミノタウロスの迷宮よろしく囚人を閉じ込める迷宮の苛酷な環境で徐々に社会を形成する人々を描きます。SF要素は薄めです。
・「老ヴォールの惑星」=「竜の卵」を髣髴とさせる異星生物を描きます。
・「幸せになる箱庭」=超文明のエイリアンとのファーストコンタクト物です。「宇宙のランデヴー」を思い起こしました。
・「漂った男」=安全ではあるが救出不可能な状況に陥った男と救助隊員の通信による交流を描きます。ハードな人間ドラマが泣かせます。  
 
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恩田陸_『ドミノ』

『東京駅周辺を舞台に二十七人と一匹の登場人物がもつれ合うパニックコメディ』
保険会社、子役オーディション、ミステリ研究会、警察OB、過激派(!)、etc. 私は登場人物が多い話は苦手なんですが、これはキャラが立っていて大丈夫でした。それぞれの物語が○○を軸に集約していく様が実に見事でした。この面白さは今のところ今年のベストです。キャラでは特に保険会社OLの面々が印象に残りました。単行本には文庫にはない登場人物のイラストが載っているとのことです。チェックしなければっ!
     

奥田英朗_『空中ブランコ』

伊良部シリーズ2作目の短編集、1作目は未読です。天衣無縫の変人精神科医・伊良部が様々な患者の悩みをなんとなく解決していきます。患者は、サーカス団員、ヤクザ、医者、プロ野球選手、作家と様々ですが、それぞれの職業の悩みが語られていくところが興味深く感じました。意味不明に思える伊良部の行動でその悩みが解決していくのが最大の謎なのですが、実は深い思慮があるのかもしれません(笑) 思ったより明るく楽しい話でした。1作目も読まなければ(^^;)
     

奥田英朗_『オリンピックの身代金』

『東京オリンピックを直前に控えた昭和39年8月、警視庁宛にオリンピックを妨害する旨の封書が届いた。』
まず印象的なのは詳細な昭和の描写です。私にも幼いときの記憶と一致する部分があって妙に懐かしく思いました。2つの時系列を平行して描く手法は終盤ややわかりにくくなっていました。
主人公(犯人)には結局正義が無い、のが悲しいところです。主人公は頭が良く正義感が強く真面目な好人物ですが、何分ひきがねが「ヒロポン」なので… 
でも「4年後にこういうことを考える人が出てきたら面白い」などど思ったりします(笑)
     

岡嶋二人_『どんなに上手に隠れても』

『売り出し中のアイドル歌手が白昼堂々誘拐され1億円の身代金が要求された。』
大胆な誘拐手口、警察を振り回す陽動、身代金受け渡しトリック etc. 誘拐ものの構成要素が揃っています。そして、それに加わる広告業界の胡散臭さと傲慢さがこの小説の真骨頂で、芸能界の危うさや商業主義のえげつなさを浮き彫りにします。歌手のマネージャーは真摯で好感が持てますが、最終的に事件を解決に導く広告マンはどうも好きになれません。真犯人の動機が弱い、殺人事件の存在がスマートでない、という点が惜しいと感じました。

遠藤秀紀_『パンダの死体はよみがえる』

「科学の扉をノックする」に登場した本物の学者の著書です。文章が固いのは否めませんし、知識への情熱はちょっと度を越している気配もあり、いかにも「学者」が書いた本という感じです。パンダの手のひらの仕組みやツチブタの掘削能力など動物の体の機能の秘密はなかなか興味深いものがありました。また、動物の体の構造なんて解剖すればわかるものだと思っていましたが、解剖の大変さ(特にゾウなどの大型動物)やそれからの観察にも専門的な知識や技術が必要で、ちょっとした大事業であるという事もわかりました。

小川洋子_『科学の扉をノックする』

小説家の著者による第一線の科学者へのインタビュー集です。宇宙論や遺伝子などNewtonで馴染みのある分野では知ってることの方が多く、図解が少ない分わかりにくい感じです。スプリングエイト、粘菌、遺体科学など馴染みのない分野については「より深く知りたい」と思わせ、その科学者の著書を読んでみたくなりました。基本的には素人目線ですが小説家ならではの鋭い切り口も散見します。最後の阪神タイガースのトレーニングコーチへのインタビューは「著者の趣味が爆発!」って感じで他とは違う熱を感じました(笑)
 
 
目次
1章 渡部潤一と国立天文台にて―宇宙を知ることは自分を知ること
2章 堀秀道と鉱物科学研究所にて―鉱物は大地の芸術家
3章 村上和雄と山の上のホテルにて―命の源“サムシング・グレート”
4章 古宮聰とスプリングエイトにて―微小な世界を映し出す巨大な目
5章 竹内郁夫と竹内邸にて―人間味あふれる愛すべき生物、粘菌
6章 遠藤秀紀と国立科学博物館分館にて―平等に生命をいとおしむ学問“遺体科学”
7章 続木敏之と甲子園球場にて―肉体と感覚、この矛盾に挑む

小川一水_『天涯の砦』

地球と月を中継する軌道ステーション“望天”で起こった破滅的な大事故。虚空へと吹き飛ばされた残骸と月往還船“わかたけ”からなる構造体は、真空に晒された無数の死体とともに漂流を開始する。

裏表紙より
SFマガジン掲載の短編を読んでそのハードSF調を気に入っていた作家の作品をやっと読みました。

近未来を舞台にしたハードSF描写は期待通りの出来でそれっぽい描写はなかなかです。やや楽天的にも思える宇宙開発の様子はかなりリアルです。過酷な宇宙空間でのサバイバルはスリリングで、真空なのは当然として、無重力、無音、などのさまざまな条件が意外な影響を及ぼします。

反面、展開にはトンデモ要素はほとんどなく、想定の範囲を脱しきれません。特に結末の優しさにはちょっと脱力しました。意地悪な私はもうちょっとバッドな結末を期待していました(笑) 登場人物は自信喪失気味なヒーローとヒロイン、頼りになる大人、頭でっかちで生意気な少年、無力な子供、正体不明の敵、などが配置されていますが、類型的なものから脱しようとして脱し切れてない感じです。

一言でいうと良くも悪くも期待通りでした。SF要素は現存技術の延長を想定したもので(これはこれで好きですが)、物語も現代社会の延長(それなりにスリリングですが)です。軽くもうひとひねりあると私の好みにドンピシャなんですけどね~(笑) 小川一水氏の作品には「天冥の標」シリーズやSFマガジン2010-2掲載の「アリスマ王の愛した魔物」など、異なった作風のものもあるようなので引き続きチェックしようと思います。

冲方丁_『天地明察』

「冲方丁_天地明察」(A)を読了しました。→読書リスト
江戸城に仕える碁打ち衆の一人「渋川春海」は登城前の早朝、籠を雇い宮益坂の神社を目指す。目当ては江戸の算術家たちが腕を競う「算額奉納」だ。腕に自信がある晴海が難問と思った問題に一瞥で答えを書いて去った男は関と名を記していた。
本屋大賞受賞作ということで、さすがに人気で図書館予約してから1年以上待たされました。しかし、私には馴染みが少ない時代小説である、作者のSF代表作「マルドゥック・スクランブル」は途中で投げ出した経験がある、と不安要素もあり、恐る恐る読み始めました。

そんな心配をよそに読み始めるとすぐ引き込まれました。持ち慣れぬ刀の重さに辟易しながら主人公の晴海が急ぐ目的が「算額奉納」つまり神社に奉げられた数学の問題というのです。そんな風習があったとは知りませんでしたし、江戸時代と数学という取り合わせも新鮮です。晴海と有名な数学者「関孝和」の出会いのきっかけになる問題 『今、釣(高さ)が九寸、股(底辺)が十二寸の、勾股弦(直角三角形)がある。その内部に、図のごとく直径が等しい円を二つ入れる。円の直径を問う』 は時間があるときに挑戦してみたいです。解く自信はあまりありませんが…(笑)

話の核になるのは主人公の渋川春海の人柄です。稀有な才能を持ち純真に誠実に改暦という一大事業にまい進する姿は非常に魅力的です。また、優柔不断で情けないところや失意に落ち込むところなど、人間味もあり好感を持てます。

春海に深く関わりを持つのは後に妻になる「えん」と数学者の関孝和です。えんの方はベタなラブコメ的出合いなのですんなりまとまるかと思いきや…、でしたし、関の方はこれまた直接会うまでにずいぶん時間がかかりました。まぁ、この二人は晴海にとってはセットのようなものですが(笑) 晴海の才能と人柄は、関のほかにも「水戸光圀」「保科正之」など歴史上の人物を始めとする多くの人々の協力や援助を集めることになります。改暦という事業には技術上、政治上の障害も多く、紆余曲折の展開はなかなかハラハラします。

従来の宣命歴を新しい大和暦にする改暦が物語の主題なのですが、暦自体の重要性が良くわからないのが難点です。潮の満ち引きや船の位置を知ったりするのに漁業にとっては重要だろうし、季節による天候の変化を知るという点では農業にも必要だという想像はつきますが…。物語中では蝕の有無が争点になりますが、今でも日蝕、月蝕は話題にはなるものの実生活に影響があるとは思えません。多分に吉凶を占うというような宗教的な意味合いが強い感じで現代に暮らす私たちにとってはその重要性が理解しにくいものとなっています。物語中では晴海は専ら科学者のように描かれますが実際には神道家でもあったのでその視点からの描写もあれば良かったのかもしれません。

一部難しい語句が出てきます→(蹌踉、蝟集、朔日、過褒、讒言 など)今はネットで意味や読み方を調べられるので便利ですね~(笑) 数学や天文学の話も少し出て来ますが特に知識が無くても楽しく読める物語でした。

表紙絵はこちら(Amazon.co.jp)

*江戸川乱歩_『怪人二十面相』

「江戸川乱歩_怪人二十面相」を再読しました。
小学生のときに読了した作品。
東京は不思議な盗賊「怪人二十面相」の噂で持ちきりだった。
そんな中、実業家の羽柴壮太郎宅に二十面相からロマノフ王家に伝わる宝石を狙う予告状が届く。
壮太郎本人、帰国した長男壮一、大勢の使用人らが警戒する中、予告の時間が近づく。
最近映画にもなって話題の怪人二十面相の初登場作品です。めにいさんのところで映画の記事を見かけ懐かしく思って再読してみました。このシリーズは小学生のとき学校の図書室で借りては読んだものです。

この作品が最初に『少年倶楽部』誌に連載されたのは1936年(昭和11年)です。しかし小学生のときに読んだときにはこんなに昔に書かれたものだとは全く気がつきませんでした。今読むと物価とか交通手段とか服装とか時代を感じさせる記述は散見しますが、意外なくらい時代的な普遍性のある物語です。このへんが長い間愛される秘密なのかもしれません。

子供向けに書かれたものなのでストーリーは当然複雑なものではありません。基本的には名探偵明智小五郎(+少年探偵団)VS怪人二十面相の対決、というミステリーというよりは冒険小説に近い内容です。怪しい人物は登場したときから怪しいですし、期待を裏切ることのない展開を見せます。明確な伏線を張っておいて年少の読者がそれを見破る快感を得られるという作りですね~ 私も再読にもかかわらずけっこう嬉しかったし(笑)

私が自発的に本を読むようになったのはこのシリーズが最初だったと思います。シリーズの中にはホラー色、SF色の強いものもあり現在に至る私の本好きの原点とも言えそうです。今回は図書館で借りたのですが装丁も昔のままで嬉しくなりました。奥付には1964年8月第1刷、1998年1月第108刷とあります。ネットで検索すると文庫版なら今でも新品で入手可能なようです。今でも小学校の図書室には揃っているのでしょうか?

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