井上夢人_『風が吹いたら桶屋がもうかる』

「井上夢人_風が吹いたら桶屋がもうかる」(A-)を読了しました。→読書リスト
牛丼屋でバイトをする大学生シュンペイ、彼の同居人ヨーノスケは超能力者、同じく同居人イッカクは名探偵。シュンペイのもとには彼らの評判を聞きつけた依頼者が後を絶たない。
似たようなというかほとんど同じシチュエーションを繰り返す7編からなる連作短編集です。各編のタイトルをつなげるとことわざの説明になるという仕掛けになっています。

美人の依頼人がシュンペイに問題を持ち込み、ヨーノスケが超能力で、イッカクが論理でその問題を解決する(?)、というパターンが各編で繰り返されます。そのワンパターンぶりは導入部から各人の台詞回しまで徹底しています。作者の遊びなんでしょうが、少々ふざけた作風なのでなかには怒り出す人もいるかもしれません(笑)

話の内容はほとんど悪ふざけに近いのですが、そこは作者の軽快な文体で楽しく読み進めることができます。3人のメインキャラクターはそれぞれ個性的で魅力がありますし、揃って美人という依頼人たちもモブキャラなりに描き分けられています。シュンペイたちの暮らす元倉庫の住まいはなかなか楽しそうですが、冬は寒そうだし夏は暑そうですね~(笑)

本格ミステリーに対する皮肉がこの作品全体の核になっています。作者自身は井上夢人名義では純然たるミステリーは書いていないのでこういうのが書けるのでしょう。逆に言うと自分が書きもしないのに批判するとは、ということにもなりそうですが、その辺も織り込み済みなのかもしれません。

一編だけちょっと変化球がありますが基本的にはワンパターンを貫いています。最後の一編くらいは変わった結末があっても良かったんじゃないかとも思いました。

・収録作品
風が吹いたらほこりが舞って / 目の見えぬ人ばかりふえたなら / あんま志願が数千人 / 品切れ三味線増産体制 / 哀れな猫の大量虐殺 / ふえたネズミは風呂桶かじり / とどのつまりは桶屋がもうかる

表紙絵はこちら(Amazon.co.jp)
スポンサーサイト



*井上夢人_『オルファクトグラム』

「井上夢人_オルファクトグラム」を再読しました。
2003/1/23に読了した作品。
「ぼくの鼻は、イヌの鼻!?」
殺人者の襲撃に遭い、頭部を強打された後遺症で“匂い”を失った「ぼく」こと片桐稔は、その代わりに凄まじい“嗅覚”の世界を獲得する。この尋常ならざる異能を用いて、殺人者に殺された姉の仇を討つことはできるのか?

裏表紙より
8年ほど前に読み大変面白かったのですが内容をすっかり忘れてしまい、上にあるあらすじ程度のことしか覚えていませんでした。そのために初読と同じように楽しめました。これは喜んで良いんですよね?(笑)

ノベルス版で4センチの厚さ(652ページ)という大長編です。「あれっ、こんなに厚かったっけ?」とも思いましたが物語はスリリングで読ませる読ませる、リーダビリティの高さは尋常じゃありません。

あらすじにもあるように主人公の置かれた状況がかなり特殊です。犬のように嗅覚が主要な感覚となった世界はとても面白く描かれています。ただ、その説明に多くのページが割かれているので少々しつこい感じもしました。まぁ、これは内容を忘れたとはいえ私が再読だからで、初読ならちょうど良い分量なのかもしれません。

この主人公の特殊な嗅覚が話の核となりますが、展開自体は割りに普通です。以前記事にした同じ作者の「ダレカガナカニイル…」と比べるとかなり穏当なオチです。なにかと言うと恋人といちゃつく主人公にムッとすることが多いのですが(笑)、このオチなら許せる気がしました。

惜しいのは犯人の動機や異常性の描写がちょい足りないことです。サイコなひとでなしなのですが、どうしても主人公の特殊な嗅覚を演出するための付け足しっぽい雰囲気が漂います。また、主人公が所属するアマチュアバンド、殺された姉との関係、テレビ局の女性ライター、など膨らませたら面白そうな要素が放置されているのももったいない気がしました。まぁ「これ以上長くなっても」ってことでしょうか(笑)

表紙絵はこちら(Amazon.co.jp)

井上夢人_『メドゥサ、鏡をごらん』

「井上夢人_メドゥサ、鏡をごらん」(A)を読了しました。→読書リスト
作家は自らをコンクリートで塗り固めて自殺した。「メドゥサを見た」という謎のメモを残して… 作家の娘の婚約者“私”は、作家の残した手がかりをもとに調査を始めるが…
出だしの展開はミステリータッチです。真相を追ううちに主人公の身に異変が… というのはこの手の話の定石なのですが、その異変が一風変わっています。読んでいるこっちもなんとなく不安になって来ます。

そんな異変に悩まされながらも主人公は原因と思われる23年前の事件にたどり着くのですが… この事件はあまりにもヤバすぎて普通なら調べるのをやめるだろうって感じのものです。もっともここで止めてしまったら話にならなくなってしまいますが(笑) この部分は某超有名和製ホラーっぽさが激しく漂います。

終盤になって主人公はあるものを発見するのですが、その内容がなかなか驚愕ものです。たぶんこれをやりたくて作者はこの小説を書いたんだと思います。その描写はかなり省略してありますが、完全な形で記述しても面白いかもしれません。出版社は(読者も?)怒るでしょうが(笑)

着地はまぁ、途中から予測が付きましたが、やはり読者に不安を与えるものです。
「この小説は誰が書いて、そして誰が読んでいるんだろう…?」

作中で主人公はパソコンを使っていろいろ調査をするのですが、1995年の作品なのでパソコン通信の時代です。当時の最先端を描いたのでしょうが、今となっては却って古臭さが目立つ結果になってしまっています。あと、携帯電話も普及前で留守番電話が活躍します。仕方ないのでしょうが、こういう技術的なものを小説で扱うのは難しいものですね。

井上夢人は好きな作家なのですが(「ダレカガナカニイル」は最も好きな小説の一つ)最近はなんとなく読んでいませんでした。でも、この作品を読んでいる間は仕事中でも続きが気になったり、かなり引き込まれました。今回、面白さを再認識したので今後は未読の作品を出版順に読んでいくことにします。

表紙絵はこちら(Amazon.co.jp)

*井上夢人_『ダレカガナカニイル…』

私が好きな本!に「井上夢人_ダレカガナカニイル…」を追加しました。
1997/2/26に読了した作品  再読して認識しました、これは超オススメです!!

警備員の西岡悟郎は新興宗教の道場の警備に当たっていた。道場の火災で教祖が焼死したとき、彼の体を不思議な衝撃が襲った。それ以来、《声》が彼の頭の中に同居するようになった。

仕掛けとして新興宗教が使われています。
この作品は1992年に単行本が刊行されているので「あの宗教団体」をモチーフにしたわけではないはずです。
しかし作中に出てくる宗教用語や、その体制の描写などはどうしても「あの宗教団体」を思い起こさせます。

しかし、本作は実際には悲しい恋愛がテーマのファンタジーなのです。
ほんの少しアウトローな主人公(すぐにビールを飲むw)には好感が持てますし、
主人公と《声》との軽妙なやり取りも魅力です。

ラストで明かされる、衝撃の真実、そして結末。
えぇ~、そんなぁ~(>_<)と再読にもかかわらずショックを受けてしまいました。

その愛の強さ故に導かれた結末、今思い出しても切なくなります。
犯した罪の罰と思えば仕方ないとも思えますが…
・・・んっ、視点を変えるとハッピーエンドかも? よくわからなくなってきました(笑)

井上夢人氏は私の好きな作家の一人です。
ホラーやSFやファンタジーの要素の混ざったミステリーというジャンルが私の嗜好にピッタリはまるようです。
この作品はそれまでコンビで岡嶋二人として活動してきた井上氏の独立最初の作品です。
それだけに気合が入っているのかもしれません。
氏の作品では「オルファクトグラム」もお勧めです。

リンク
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
プロフィール

びぎR

Author:びぎR
読書、鑑賞日記です。
月1更新

最新記事
検索フォーム
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

月別アーカイブ