山本弘_『地球移動作戦』

「山本弘_地球移動作戦」(A)を読了しました。→読書リスト
西暦2083年、宇宙船『ファルケ』は褐色矮星と思われる天体を観測するために深宇宙に派遣される。観測の結果『シーヴェル』と名付けられたその天体は24年後に地球に接近し、強大な重力で壊滅的な被害をもたらすことがわかった。その時、ファルケの機関に異常が発生する。
SFマガジンの連載を追いかける形で読んだのですが単行本になっているのでまとめて読んでみました。連載を読み終わったのはつい先日なので「ちょっと確認」といった感じです。当然ですが連載したものと大筋は同じです。各回の感想などはSFマガジンの記事に書きました。→第1回最終回

宇宙の彼方からやってくる天体によってもたらされる地球の破滅を人類の英知で回避するというオーソドックスなテーマのSFです。そこに山本氏得意の最新科学に基づいた(っぽい)味付けをして美味しく仕上げています。人のパートナーとなった人工知能ACOMの存在を前面に出しているのが最大のオリジナル要素です。

ピアノドライブという夢のような技術がこの小説の前提となっています。タキオンを噴射することにより推進力を得るというもので、理屈はよくわかりませんが宇宙船を光速の半分くらいまで加速でき、さまざまな推進力、さらには地球を移動させるのにも使えます。この技術が無ければ地球を移動させるのはもちろん天体を発見することすることすらできなかったはずです。とすると「もし今、件の天体が近づいていたら発見できないし、手も足も出ないな」とワクワク(笑)します。

この小説の事実上の主役はACOMと呼ばれる人工知能です。人類を救った最大の功労者はユーナという殺人ACOMですし、登場人物(?)のうち半数近くはACOMで占められています。彼らは実際にはサーバー内にしか存在しないので実体を持ちませんし(例外あり)、思考方法などは明らかに人間とは違う異質な存在です。「アイの物語」の詩音とも共通点が多く、作者の人工知能に対する考えを反映していると思いました。

ピアノドライブやACOMの他にも抗老化処置、クレイトロニクスマシン、未来警報システムなど様々な超技術が登場します。科学的(っぽい)説明がなされ一見素晴らしいことのように思えるのですが、私はこういう楽観的な科学万能主義は少々鼻に付きます。私の思想的な立場はテロで地球移動作戦を妨害しようとしたマリオネタス(過激な終末論者)に近いのかもしれません(笑)

後半に大きな加筆部分が2つあります。まず地球移動作戦を妨害する大規模テロが一件追加されています。割と平坦だった連載時の展開にスパイスが加わりました。実際連載されたものだと主人公の台詞「何も起きなさすぎる!」を地で行く感じでしたから(笑) また主人公の兄の視点で地上の被災状況の描写が追加されました。連載時にはこの兄は途中から全く忘れられてしまったようだったのです。日本各地は天体の影響で津波に襲われるのですがその描写は311後の今となっては「こんなもんじゃないだろ」という甘いものですが。。。 (本書は2009年発行)

全体的には完成度が高く、トンデモ度とのバランスもとれていて、連載の再読でもとっても楽しめました。再読じゃなかったら年間ベスト級と言っても良いかもしれません。でも、トンデモ度のより高いMM9シリーズにはちょっと敵わないかな(笑)

表紙絵はこちら(Amazon.co.jp)
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山本弘_『MM9― destruction ―』

「山本弘_MM9― destruction ―」(A)を読了しました。→読書リスト
東京を襲った冷凍怪獣ゼロケルビンはヒメの活躍で倒された。ヒメ、そしてこの件に深くかかわった一騎、亜希子らは関東のとある神社に連れて行かれる。
『MM9―invasion―』の直接の続編で、同じく『Webミステリーズ!』連載です。
『Webミステリーズ!』→http://www.webmysteries.jp/

「invasion」で冷凍怪獣を送り込んだチルゾギーニャ遊星人がより強力な怪獣を送り込みます。その真の狙いは何かなのか?というのが最大の焦点です。

全体的な印象としては怪獣大決戦の趣です。ゴモラ、ガメラ、キングジョー、ナース、モゲラ、などなどをモチーフにしたような怪獣たちが登場します。ガッツ星人でのエピソードを彷彿とさせる場面もありますし、観測するだけで侵略行為になるってのはギエロン星獣ネタの気もします。その他特撮ネタのパロディ、オマージュが満載でファンにはたまりません。その反面元ネタを知らないと面白さ半減かな、とも思います。上にあげた怪獣の固有名詞も知らない人にとっては意味がないですしね~(笑)

前作までと同じく「人間原理」がSF的論理の核となっています。そしてビッグバン宇宙と神話宇宙の対決が大きな枠組みになっています。しかし私はこの枠組みに少々疑問を感じました。そもそもビッグバン宇宙が神話宇宙と対立するという前提がわかりにくいのです。ビッグバン宇宙そのものが地動説を唱えた科学者たちやアインシュタインが相対性理論を考え付いたことなどによって顕在化した神話の一種であるとも考えられます。実際ビッグバン宇宙論自体が我々一般人にとっては現実味が薄くておとぎ話みたいなもんですしね~(笑) 人類の科学文明を守ろうとする地球側の怪獣の意図もいまいちはっきりしません。いっそのこと神話宇宙に支配されてしまえば、核兵器などの大量殺りく兵器は機能しなくなるでしょうし放射能などの様々な環境問題も解決してしまう気もしたりして…

ヒメの存在の起源を探るパートでは色々な神話のうんちくが語られます。以前「カムナビ」の記事でも言ったのですが興味と知識がある人には面白いのかもしれませんが、私には正直少々退屈でした。私は読み飛ばし気味にしてしまいましたが、ちゃんと読んでおけば終盤の種明かしで「おぉっ!」となるのかもしれません(^_^;)

ここまでの記事↑を読み返すとなんか批判めいた内容の分量が多くなってしまっていますが、全体としてはとっても楽しめました。山本氏の「詩羽のいる街」の作中の言葉を借りると「作品として昇華されていてエンターテインメントとして安心して読める」ということです。続編は。。。今度はちょっと難しいかな?

山本弘_『MM9―invasion―』 第1部完

東京創元社の『Webミステリーズ!』連載の山本弘_『MM9―invasion―』が第7回で第1部完となりました。
『Webミステリーズ!』→http://www.webmysteries.jp/

おおまかには
前作「MM9」の事件の首謀者が宇宙人と協力して宇宙冷凍怪獣デルタを呼び寄せる。
それに対して前作のヒロイン(?)ヒメが正義の宇宙人の力を借りて対抗する。
という内容です。

どちらかというとウルトラQテイストだった前作よりウルトラマンテイストにシフト(正常進化)した感じです。3分間の制限時間、身長40メートル、恒点観測員という身分、などウルトラ世代にはニヤッとさせるギミックが満載です。冷凍怪獣デルタの設定もウルトラセブンに登場した冷凍怪獣ガンダーをブラッシュアップしたような秀逸なものです。絶妙な屁理屈でヒメを映像化するときの問題点もクリアし、その戦闘シーンは迫力満点です。特に終盤にあるものを使って(協力を得て)形勢逆転するシーンには痺れました。

侵略者の目的は必ずしも地球を支配することではなく、この「MM9」という小説全体に流れる「人間原理」に基づく目的があるというのが面白いところです。作者の山本氏やこうやって記事を書いている私でさえその目的に加担しているのかも…などと妄想するのが楽しいですね~(笑)

これで第1部完とのことですが、なんかエピローグで新しい展開が始まっていて続きが楽しみです。

山本弘_『MM9―invasion―』 第3回まで

東京創元社の『Webミステリーズ!』で連載中の山本弘_『MM9―invasion―』を第3回まで読みました。
『MM9―invasion―』 → http://www.webmysteries.jp/special/yamamoto1002-1.html

舞台は前作「MM9」の6年後、前作で登場した女性物理学者の息子(高校生)が主人公です。
invasionの副題通り、宇宙からの侵略がテーマで宇宙人や宇宙怪獣が登場します。

話の焦点は前作のヒロイン(?)のヒメですが、今回は15歳程度の外観ということで実際に登場したらなかなか良い感じかもしれません(笑) ラブコメ調の展開、必要以上の秋葉原の描写など作者の趣味がさく裂しています。
自動車にアニメキャラをペイントした「痛車」は知っていましたが「痛戦車」「痛空母」があるとは(模型ですが)知りませんでした。

2カ月に1回の連載で第3回まで読みましたが、話はまだプロローグの段階です。
終了までどの位かかるのでしょうか?

ところで前作「MM9」がテレビドラマ化されるようです。
正義の味方や最後の怪獣は原作では○○の女性なのですが、その辺はどうするんでしょうか?(笑)
MM9 MBS内番組ページ⇒http://www.mbs.jp/mm9/

山本弘_『神は沈黙せず』

「山本弘_神は沈黙せず」(A-)を読了しました。→読書リスト
21世紀初頭、インターネットの普及により世界は変革しつつある。そんな時代にあってもカルト宗教は人心を集め、UFO・UMA・超能力・心霊などオカルト現象の報告は後を絶たない。フリーライターの優歌はUFOカルト〈昴の子ら〉に潜入する。
大げさなタイトルに象徴されるように風呂敷を広げた大ボラSFです(笑)
オカルト現象の解明から始まり、宇宙の構造、神の意図、などに踏み込みます。

世界各地で起こるオカルト現象について作者の膨大なうんちくがさく裂します(笑) 最初のうちはそれらのオカルト現象について矛盾点を掲げ「トンデモ」として否定するスタンスで話が進行します。しかし善良な第三者が目撃談を語ったり、主人公の優歌やその兄の良輔が超常現象を目の当たりにしたりなど、否定しきれないオカルト現象も存在するというような方向に進んでいき… やがて誰も否定できない明白な超常現象により従来の宇宙観が崩壊します。

ここで提示される新しい宇宙観が気に入りました。大枠で言うと古典「フェッセンデンの宇宙」(実は私は未読…)の発展形に過ぎず他のSF作品でもたまに見かけるものです。ちょっと変わっているのは、ある意味地球中心の天動説的な思いきった宇宙観だということです。なにしろ日ごろ我々が見上げ、天文学者が観測する星空の大部分が○○だというのですから…

不満な点が2つ。
ひとつは主人公の優歌です。正義感の強い女性なのですが、正義感が強すぎて実在感に欠け説教臭さが鼻につきます。これには「アイの物語」のアンドロイドや「詩羽のいる街」の詩羽にも共通するなんとも言えない気味の悪さを感じます。これは作者の理想の女性像なのでしょうか?
もうひとつは膨大なうんちくの取り扱いです。否定的に扱う現象と肯定的に扱う現象の線引きが大変意図的です。小説なのでホラ話と割り切れば別にどうということはないのですが主人公の感情(=作者の都合)で都合よく割り振られているように感じました。クライマックスとなる「神の意図」についてもどうもすっきりしません。

とは言え「トンデモ話」としては大変面白くグイグイ読ませる力を持っています。私は最近集中力がなくて長時間読書できないのですがこの作品は分厚いにもかかわらず比較的短い期間で読み終えました。出版が2003年で物語の舞台が2010年頃~ということで未来予測が微妙に外れているのはご愛嬌です(笑)

ところで作者の事を調べていたら(私にとっての)作者の最高傑作「MM9」の続編を発見しました。
東京創元社のウェブマガジン『Webミステリーズ!』で連載されているのです。これは読まなくては!
『MM9―invasion―』 → http://www.webmysteries.jp/special/yamamoto1002-1.html

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書庫「山本弘」

表紙絵はこちら

山本弘_『詩羽のいる街』

「山本弘_詩羽のいる街」を読了しました→読書リスト
悩めるマンガ家志望の青年が公園で詩羽(しいは)と名乗る女性と出会う。誘われるまま街中をデートするうちに彼女を基点としたネットワークが街に張り巡らされていることに気付く。人に親切にすることを仕事にする彼女の力で賀来野の街の幸せの総量が増えていく。
家を持たず、お金も持たず、賀来野の街で生きる謎の女性「詩羽」を中心とした物語です。
・第一話「それ自身は変化することなく」
・第二話「ジーン・ケリーのように」
・第三話「恐ろしい『ありがとう』」
・第四話「今、燃えている炎」
四編の連作になっていて語り部はそれぞれ違うのですが、深い関連があり登場人物の絡みも多い構成になっています。第四話の語り部がちょっと意外な人物でニヤリとしました。

作者のオタク趣味が全開でアニメや漫画に関するウンチクが満載です。私も嫌いではありませんが、どちらかというと暇つぶし程度なのでここまでテンコ盛りだと少々食傷します。ちょっと紙面を割きすぎな気もします。

詩羽は一体何者なの?という謎が終始つきまといます。動機といい、情報力、行動力といい只者じゃありません。わざと実在感の無い描き方したうえ登場人物に実在を疑わせる発言をさせたりして読者を煙に巻いたりもします。こういう読者を巻き込む手法(メタフィクションというらしいです)は好きです。と言うか、自分から巻き込まれに行きます(笑)

で、登場人物の中で一番身近に感じたのはなんと長船先生でした(笑)  私自身は(当然)こんなことはやりませんし、その楽しさも理解できませんが、世の中にはこのような悪意が存在するのは事実です。そして詩羽の情報力、行動力には確かに薄ら寒い恐怖を感じます。詩羽に悪意は無いとしても敵に回したら怖すぎますね~
いったんは逃げ出してしまった彼が最後の最後に…というエンディングには救われました。もしかしたら長船先生の救いがこの作品の最大のテーマなのかもしれません。

作中で登場人物に語らせていますが、この作品自体も「アイの物語」以上に「説教臭い」「作者の生の声が出すぎている」傾向があります。それは論理(理想とか愛とかではなく)に基づいた反戦主義であり、友愛主義です。詩羽の存在はアイの物語の「詩音」「アイビス」などのアンドロイドに重なる部分があります。その主張の内容自体は私も賛同しますし論理的な語り口には好感を持ちますが、「作品として昇華されている」「エンターテインメントとして安心して読める」と言う点で怪獣小説「MM9」の方が好みです。

山本弘_『アイの物語』

「山本弘_アイの物語」を読了しました。→読書リスト
遠い未来、ヒトに代わってマシンが地球を支配する時代。
「語り部」と呼ばれる少年は美しいマシン「アイビス」に囚われる。
アイビスは少年にヒトが書いた物語を読み聞かせる。
山本弘氏の作品は「MM9」SFマガジン2007-4掲載の短篇が面白かったので他にもないかと物色してみました。この作品はアイビスが語るという形式で短編をまとめた短編集です。
雑誌に掲載された短編5編と書き下ろし2編をインターミッションでつなぎ合わせて連作のようになっています。

全体を通してのテーマは人工知能(AI)と仮想現実(VR)です。
掲載雑誌や執筆時期(1997~2006)が違ったりするので少々温度差は感じますが楽しめる作品が揃っています。

少々異色なのは「宇宙をぼくの手の上に」です。
これは舞台が2003年なのでSF色の薄い話です。
スペースオペラと見せかけて、実は … というもので、かなり身近な題材です。

面白かったのは「正義が正義である世界」。
なかなかはっちゃけた世界観とキャラクター、その仕掛けがツボにはまりました。
ラスト近くの「いつか助けに行こう」は泣かせます。

書き下ろしの「詩音が来た日」はメッセージ性の強い作品です。
「正義が~」でもあったメッセージをさらに強くしたもので、ヒトの様々な行いに対して疑問を投げかけます。
特に介護用アンドロイド詩音の「すべてのヒトは○○○なのです」という言葉は真実かもしれないと思いました。
そうでないと説明できないことがヒトの世には多すぎます。これは私自身の言動を含めてですが(笑)

「アイの物語」では(作品中の)真実が物語られます。
これもメッセージ性が高く、インターミッションと一体となって全体をまとめる形になっています。
最終的にマシンはヒトの夢をヒトの代わりに叶えようとするのです。

ビックリするような仕掛けはありませんがとってもよく出来た珠玉の作品集です。
全体的に楽しく読めるのですが、鋭いメッセージも込められていて考えさせられます。
面白いだろうと予想はしていましたが、ここまでは期待していませんでした。
山本弘氏の作品はこれからも読もうと思います。

「収録作品」
・宇宙をぼくの手の上に
・ときめきの仮想空間(ヴァーチャルスペース)
・ミラーガール
・ブラックホールダイバー
・正義が正義である世界
・詩音が来た日
・アイの物語

山本弘_『MM9』

「山本弘_MM9」を読了しました。→読書リスト

現実の世界に極類似するその世界では怪獣が実在する。怪獣大国である日本では気象庁特異生物対策部(気特対)が怪獣により発生する災害への対応に日夜奔走しているのであった。

ワンナイトストーリーの藤中さんが紹介されていて非常に面白そうだったので読んでみました。
私はウルトラマンで育った世代なのでこの手のものには目がないのです。期待を上回る面白さでした。
<藤中さんの記事はこちら>

簡単に言うとウルトラマンなどの特撮テレビシリーズを小説にしてしまったという内容です。ただし、気特対のメンバーは公務員ですし、怪獣に実力行使するのは自衛隊の通常兵器ですし、怪獣の存在以外は現実に則した形になっています。また過去に現実に起こった自然災害、事件、事故などが怪獣によるものに置き換えられたりしています。

5編の連作短編で、それぞれが一つのエピソード(=30分番組)という形式になっています。
特撮テレビシリーズのフォーマットに沿って進むのでニヤリとするポイントや、突っ込みポイントが満載です。
特撮テレビシリーズの雰囲気が良く再現されています。

この物語の最大の謎は物理的、生物学的、etc.に存在するはずがない怪獣がなぜ存在するかということです。
それはこの本全体のテーマとして徐々に明らかになっていき、最終的に非常に明確で論理的(でトンデモ)な解答を出しています。私は「これは隠された真実かもしれない」という疑いさえ持っています(笑)

特撮テレビシリーズの小説版としてだけでなくSF小説としても大変楽しめる内容でした。文体が軽く非常に読みやすいのも良かったです。作者の山本弘氏は「と学会」の会長としては知っていましたが小説も面白いですね~
他の作品も読んでみようと思います。

内容については作者の山本弘氏自身による『MM9』の宣伝ページが詳しいです。
http://homepage3.nifty.com/hirorin/MM9.htm
少々ネタバレ気味なので読んでから見ることをオススメします。

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